クライアントは70代のご夫婦で鉄骨造2階建ての建物で約10年前までスーパーマーケットを営業していた。閉店と同時に売り場部分を解体し、調理場、事務所、倉庫等のバックヤードとして使われていた1階は倉庫として、その2階を住居として使用していた。その1階部分を住居に改修する計画である。

家族団らんの家

 改修の要望としては居間や食堂が個室化していたため、家族団らんの場所がなくなっており、奥様がつくる料理を家族4人で囲むことができる食卓のある家を求められた。
 改修前の住居部分の平面図を見ると元々3世代が暮らせるように建てられたためか、6~8帖ほどの個室が並び長い廊下で繋がれていると同時に各室が隔てられているように感じた。同様に居間と食堂もその中に並んでいる状況から個室化してしまっているのではないかと思えた。
 また、1階に住居をつくるための課題として採光を確保しにくい状況であった。町の中心部のため敷地の南側も住宅が建て込んでいることと、店舗を営業していたときの車寄せの庇が1階への日射を遮っていた。
 そこでまずワンルームのLDKを文字通り家の中心になるように配置して、そこから個室、浴室、トイレ、玄関に直接アクセスできるようにすることで動線内にLDKが組み込まれ家族内のコミュニケーションを取りやすいようにしている。
 採光については庇を透過性のある屋根材に変更し軒天を撤去すること、南面の開口面積を最大限確保して地面からの反射光も取り込めるようにした。さらに鉄骨造のメリットを活かし、LDKの壁は構造に捉われない曲面の壁を採用した。奥行きの深いLDKの北側まで光を導くためと要求諸室の必要面積を確保するためである。
 曲面壁は住居内を柔らかく仕切り、他の部屋にいる家族の気配を感じさせる。またLDKに死角ができずお互いに家族の様子が伝わる家族団らんの家となった。

お店の記憶

 クライアントはこの地で30年以上お店を営業していた。設計期間中もお店の思い出を何度も語られていた。特に印象強く残ったのが、現在の場所とは違う小さなお店で営業されていた時に1袋20kgもある食料品の在庫を2階に運んでいて大変だったが、新しいお店(現在の場所)に引越しされてからは在庫置場が1階にできたのでとても楽になったというお話であった。
 在庫置場はバックヤードの中心にあり、一度そこへ在庫を保管してから、売り場や調理場へ運んでいた。改修後は住宅の中心にLDKがあり、帰宅するとそこへ家族が集まり、夜になるとそれぞれの部屋へ移動する。
 昔のお店の設えは改修によってなくなってしまったが、体験という記憶は残したつもりでいる。

飯島の家
計画地:長野県上伊那郡飯島町
用途:住宅
工事種別:改修
担当:酒井建築計画事務所 酒井宏文
施工:株式会社ミヤ建住産
写真:SHUN FUKUDA
設計期間:2021.11~2022.7
工事期間:2022.9~2023.4
構造:鉄骨造 2階建て
延床面積(改修部分):137㎡